恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央のせいだぞ! せっかく書き直して来たのに。渡す前に、濡れてしまったんけ」


不機嫌顔になった健ちゃんが、アスファルトに手を伸ばす。


彼の手がメッセージカードに触れる前に、わたしが先にその手を捕まえた。


「なっ……んだよ……」


要らないのか? 、と健ちゃんがむっとしてわたしを見つめて来る。


わたしはふるふると首を振って、そうじゃない、と微笑んでみせた。


「じゃあ……迷惑か? 2年も待たせて今更って、言いたいのか? それは……悪かったけど……」


それも、違う。


わたしは首を振りながら、だんだん、わくわくした。


「なら……何だっていうんけな」


不安そうな面持ちの健ちゃんが、しゅんと肩を落とす。


〈健ちゃん〉


と、わたしは彼の顔を扇いだ。


〈真似、しないでよ〉


え……、と健ちゃんが、豆鉄砲をくらった鳩のようにきょとんとする。


「真似? 何が?」


だって、ねえ。


奇遇ですね、ライオンさん。


〈見て〉


エプロンのポケットに、手を突っ込む。


「何だよ……爆弾でも入ってんのか」


〈そう。爆弾〉


「えっ」


〈すごいやつ〉


「ほほう」


わたしはニヤと口角を上げ、5、4、3、と指をおってカウントダウンする。


わくわく、わくわく。


〈2〉


「爆弾なんて、やっぱり凶暴な女だんけ!」


と健ちゃんは面白可笑しそうに両手で顔をガードしながら、だだだ、と後ずさりして行った。


〈1〉


「わあー」


なんて、健ちゃんがわざとらしさたっぷりに目をつむった。


その隙に、わたしはエプロンのポケットからさっと素早く手を抜き出す。


わくわく。