恋時雨~恋、ときどき、涙~

「あ、笑ったと思ったら、その後には泣いてたり。嬉しそうにはしゃいだと思った矢先、急に怒って凶暴になる」


〈凶暴? ひどい!〉


ぶん、と右手を上げると、


「ほら見ろ! 凶暴だんけ!」


と健ちゃんは、わたしの手を捕まえてけらけらと笑った。


「でも、そういう真央が、おれは好きだ。大好きだ。真央」


わたしだって。


わたしだって、大好きなのだ。


たぶん、きっと。


いいえ、絶対。


わたし、初めて会ったあの瞬間から、この人のことが好きだった。


『音のない世界って、どんな感じ?』


涙が膨らむ。


〈何よ〉


負けないんだから。


だって、わたしの方が勝っていると思う。


〈わたしは、もっともっと、大好き〉


その事を、このライオンさんは分かっているのだろうか。


「なにー! 生意気だんけ! おれの方がすごいんだぞ!」


そう言った後、健ちゃんはライオンの真似をして、がおーがおーとわたしの周りをぐるぐると走り出した。


道行く人たちがあきらかにへんてこなライオンを見て、笑っている。


〈やめてよ!〉


でも、健ちゃんはやめようとしない。


がおーがおー、と走り回る。


顔から火が出ているのではないかと不安になった。


周りの視線が突き刺さる。


ふと、店の方を見ると、3人がぽかんと口をまんまるにしてわたしたちを見ていた。


幸と目が合った。


あほやん、幸の唇がきっと、そう言った。


〈恥ずかしい! 健ちゃん!〉


雨の中、ライオンさんが走り回り続ける。


それを、短い耳のうさぎが必死にとめようとする。


〈健ちゃん!〉


いつまでも、子供みたいな人だ。


わたしは、がおがお駆け回る健ちゃんのTシャツの裾を掴んで、ぐん、と引っ張った。


その際に、ひらりひらりと雨を切りながら、メッセージカードが濡れたアスファルトに舞い降りた。


【短い耳のうさぎ さま】


ハッとした。


「ああっ!」


健ちゃんの大きな口に驚いたわけじゃない。


書かれていたその文章を見て、ハッとした。