恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしたちの恋に壁が立ちはだかる時に決まって、降っていたのだと。


でも、違うのかもしれない。


わたしたちがその壁を越えようとするたびに雨が降っていたのかもしれないと。


ひとり、ではなく。


ふたりで、一緒に。


そう、思った。


「真央」


健ちゃんが、わたしを呼んでいる。


大きな口で。


「ついでだんけな。もういっこ、良いこと、教えてやる」


時雨には、ふたつ、意味があるのだと彼は言う。


ひとつは、雨。


もうひとつは。


「涙」


誰かを好きになると、時々、不安に負けそうになる。


苦しくて、切なくなる。


それで。


「涙が出るだろ。楽しいと思ったら、突然、苦しくなって。嬉しい事があった矢先、切なくなって。な。恋も時雨と同じだんけ」


ああ。


本当に。


そうだね。


わたしたち、出逢ったり、別れたり。


くっついたり、離れたり。


大忙しだったね。


わたしたちの恋は、時雨みたいだ。


「人は、恋に落ちると、時々、涙が出るだろ」


健ちゃんが、こっちへ近づいて来る。


ニタニタ、いたずら小僧みたいな笑顔で来て、立ち止まった。


「それに、真央も。真央も、時雨みたいな女だ」


〈わたし? どこが?〉


首を傾げてみる。