恋時雨~恋、ときどき、涙~

「晴れて来たかと思えば、突然、降り出す。やんだかと思った矢先、また、降り出す。それが、時雨だんけ」


次第に本降りになってきた中、濡れる事も気にせず、


〈そうなんだ。優しくて、長い長い雨の事だと思ってた〉


「あほう。真央は、世間知らずのお嬢様だな」


手で会話するわたしたちを、通行人たちは物珍しそうに見ては振り返り、足早に先を急ぐ。


でも、と健ちゃんが空を指さした。


「おれと、真央に、降る雨は、全部全部、時雨だな」


〈……え?〉


「過去も、今も、未来も。いつも、時雨だんけ」


時雨は秋と冬の間に降る雨のことだって、言ったくせに。


〈どういうこと?〉


難しい顔で首を傾げたわたしに、まあまあ、と健ちゃんはどこかくすぐったそうに笑って、こう言う。


恋に気付いた途端、いきなりつまずいて。


想いが届いたと思った矢先、今度は派手に転んで。


ようやく立ち上がる事ができたのに、道に迷って、歩き疲れて、立ち止まって。


また歩き出したら、迷路に迷い込んで。


疲れて休んでいたら、はぐれてしまって。


でも、やっぱり一緒が良くて、お互いに探し回って。


遠回りしたり、道に迷いながら、また、巡り逢って。


「だんけ、おれたちに降る雨は、いつも時雨みたいだなと思ってさ」


晴れたり、突然、雨が降ったり。


降ったり、やんだり、降ったり。


「おれたちに降る雨は、恋の、音がするんけ」


〈恋、の、音?〉


あ、と思う。


わたし、ずっと、勘違いしていたのかもしれない。