恋時雨~恋、ときどき、涙~

強くなければ、弱くもない。


絹糸のような長細く、繊細な雨粒だ。


〈今日はもう、やみそうにないね〉


わたしは手のひらを上に向け、雨の感触を確かめたあと、


〈今日は、どんな音?〉


と聞いてみた。


ザー、ザー。


しと、しと。


べしゃ、べしゃ。


さら、さら。


もうずっと前に健ちゃんが教えてくれた、雨の音。


今日はどんな音がしているのだろう。


〈これは、し、ぐ、れ?〉


指文字をするわたしを見て、


「ばかだんけなあー」


と、健ちゃんが勢い良く吹き出した。


たぶん。


健ちゃんは今、大きな声を出したのだと思う。


通行人がぎょっとした顔で、健ちゃんを振り返り見る。


「夏に、時雨は、降らないんだぜ」


好奇の視線に気付いていないのか、気付かないふりをしているのか。


「時雨ってのはなあ。秋と、冬の間に降る、気まぐれ雨のこと、言うんけ」


通行人がじろじろと健ちゃんを見ている。


その視線を全く気にせず、


「真央は、そんな事も知らないのか」


と彼はあっけらかんだ。


わはははは、なんて笑っている。


この人は、人の目など気にならないのだ。


そういう、人だもの。


ああ。


ああ、わたし。


この人の、この笑顔が、たまらなく大好きなんだ。


泣けるほど、大好きなんだ。


あの頃、いいえ。


初めて出逢った、夕日がきれいなあの夏の日から、ずっと。


どうしようもなく、大好きなんだ。


「真央」


いいか、と健ちゃんは雨に濡れながら、両手と口を一緒に動かす。