恋時雨~恋、ときどき、涙~

「そうか。ない、か」


店長の唇を読んで、わたしは頷いた。


どんなに信じると心に決めていても、やはり、距離にはかなわないのだろうか。


希望に満ち始めたはずの恋は、また、漠然としたものになっていた。


順也や静奈に探りを入れても心配をかけるだけだ。


それは、避けたい。


こんな時でも負けず嫌いに振る舞ってしまう自分に、溜息が出る。


もしくは、他にいい人に出逢ったのかもしれない。


他に好きな人が現れたのかもしれない。


だとすれば、それは仕方のないことだ。


浮かない顔のまま作業を続けようとした時、


「何だ何だ。その、辛気臭い顔は」


と無愛想な店長が大きな口で、わたしの前に立ちはだかる。


「行って来い」


なんだか、とても偉そうだ。


「行って来い。そんなに不安なら、自分から会いに行け」


なんだか、すごくすごく、偉そうだ。


わたしは、ふるふると首を振った。


「何でだ」


店長が右の眉をへの字にする。


「休みならやるから。心配するな。真千子だって居るんだから。どうせ、暇な店なんだから」


それでも、わたしは頑なに首を振った。


店長が唇を尖らせる。


「なんて強情な女だ」


なにっ。


余計なお世話だ。


わたしはむっとして、ロッカーにある鞄からメモ帳とボールペンを取り出した。


【約束したから】


「やくそくー?」


こくっと頷いて、ボールペンを握り直す。


【必ずむかえに来てくれると
 待っていろと
 彼は言った
 信じる】


メモ帳を見せながらきつく睨むと、


「そんな意地張って、強がりばかり言ってもな。良い事なんか、ひとつもないぞ。来てくれないなら、こっちから会いに行けばいいだろう」


そのお迎えはいつになるんだろうな、と呆れ顔をして店長は仕込を始めた。