恋時雨~恋、ときどき、涙~

息が出来なくて苦しくて、たまらなく、幸福で。


わたしはその唇を必死に受け止めながら、ワイシャツを握りしめた。


頭がくらくらした。


わたしは今、幸福の極地に立っている。


このままでは本当に気を失ってしまうのではないかと怖くなり、健ちゃんの胸との間に手を入れようとしたけれど。


健ちゃんはそれを拒むように、わたしを抱き寄せる。


ああ、もう。


長い長い、幾日も降り続ける雨のようなキスに眩暈だ。


唇が溶けて無くなってしまうんじゃないかと怖くなるような、強引で激しいキスに、眩暈だ。


どれくらいの時間、そうしていただろうか。


永遠とも勘違いしてしまいそうな時間が経ってようやく健ちゃんが離してくれた時、上空はもう、仄かに淡いインディゴブルーに染まっていた。


夜空に形のいいミルキーイエローの三日月が、滲むようにぼんやりと浮かんでいる。


キラキラ、キラキラ、光る。


夏の始まりを告げる星座がひしめき合うように、上空を埋め尽くす。


きれい。


わたしは夜空に釘付けになった。


雨、みたいだ。


今にも星が、ばらばらと降ってきそうだ。


肩を叩かれ、見ると、健ちゃんが戻ろうかとわたしに手を差し伸べていた。


うん。


わたしは頷き、差し出されたその手に手を重ねた。


この先、どうなるのかなんて、分からない。


不安要素だらけだ。


また、だめになってしまうかもしれない。


でも、と思う。


この人の手を自ら離すような事だけは、しない。


絶対にしない。


健ちゃんに手を引かれながら、わたしはこっそり振り返った。


幾千億もの星が、海に降り注いでいた。