恋時雨~恋、ときどき、涙~

「健太さんは、そんな人じゃないよ。迷惑だなんて、思ってないよ」


分かっている。


健ちゃんは、きっと、心の広い人間なのだと思う。


ろうあのわたしと友達になってくれたくらいなのだから。


でも、わたしは首を振った。


「順也が入院してるのに、頑張ってるのに、わたしだけ遊びに行くなんてできない」


わたしの手話を見て、順也と静奈は目を合わせて、同時に吹き出した。


順也の唇が動く。


「ぼくの心配なら、要らないよ。日曜日は、静奈が1日ついててくれるから。行ってきたら?」


それでも頑なに首を振るわたしに、順也は続けた。


「真央といると、楽しいって。健太さんが言ってた」


わたしは、不思議でたまらなかった。


ちゃんとした会話もできない関係なのに、それでも、わたしといると楽しいだなんて。


一緒にいると楽しいと言ってもらえたのは初めての事で、わたしは戸惑った。


静奈が、わたしから花瓶を奪って言った。