恋時雨~恋、ときどき、涙~

無謀な事なのかもしれない。


おそらく、見つからないと思う。


ずんずん、突き進む。


足元でつめたい砂が踊るように揺れ、やわらかく絡みついて来る。


無理だ。


海は、こんなにも広いのだ。


無理だ。


見つかるわけがない。


それでもずんずん進みながら、両手で水の中を探り続けた。


水中をひとかきするたび、涙があふれた。


悔しくて、奥歯を噛む。


水位は胸下にまで達していた。


沈みかけの太陽が海に溶けだして、水面に一本の光の道を作っていた。


わたしは立ち止まり、その道を見つめた。


優しい色が、涙を誘う。


わたし、何でこんなに、健ちゃんが大好きなんだろう。


その時、不意に肩を掴まれて振り向くとやっぱり、健ちゃんだった。


怒ったような顔を、していた。


《何やってるんだよ!》


戻ろう、と健ちゃんがわたしの腕をぶっきらぼうに引っ張る。


その手を、わたしはぶっきらぼうに振りほどき返した。


海水が飛び散る。


〈大切な物が、流されてしまったの! 探す! 見つける!〉


彼を突き飛ばして、わたしはまた歩き出した。


でも、腕を掴まれる。


《これ以上は危険だ! 分かるだろ》


だから、何。


《死ぬ気か!》


わたしはぎりりと健ちゃんを睨み付けた。


そんな気、さらさらない。


死にたくてこんな深みまで来たわけじゃない。


〈わたしは死んだりしない! そんなばかな事、しない!〉


人魚姫のように、海の泡になったりしない。


風の精霊になるつもりもない。


〈わたしは、人魚姫にはならない!〉