恋時雨~恋、ときどき、涙~

恋がこんなにも辛くて苦しくて、切ないものだというのなら。


〈もう、二度と、恋なんてしない、と〉


あの日、わたしは確かに誓ったはずなのに。


でも、また、恋に落ちてしまった。


3年という歳月を経て、今日、また同じ人に。


〈どうすればいいの? 好きな人に、もう一度、恋をしてしまった場合、どうすれば〉


《……何》


健ちゃんが目を丸くして、


《……ばかなこと言って》


と背中まで丸めた。


本当だね。


わたし、何てばかなことを。


止まる事を忘れた涙をしつこく拭い続けるわたしを見つめる健ちゃんは、


《泣くな……泣かれても、困る》


本当に困ったように眉間に深いしわを作って、


《泣かれても、今のおれは何もしてやれない》


とふいっと目を反らした。


次の瞬間、健ちゃんが慌てた様子で寄せて返って行った小波に手を突っ込んだ。


同時に、わたしも同じ行動をとっていた。


砂の上に落ちたままだったメッセージカードが、波にさらわれてしまったのだ。


浅瀬で白い物が光って見えた。


あった!


わたしは飛び付くように、それを掴んだ。


でも、途端に落胆した。


それはただの貝殻で、メッセージカードではなかった。


肩を落として浅瀬に座り込むわたしの肩をぽんと弾いて、


《仕方ない。どうせ、一度は捨てた物だ。こうなる運命だった》


と健ちゃんが言う。


《最初から存在していなかった物だと思えばいい》


〈最初から……存在していない?〉


健ちゃんが《仕方ない》と頷く。


カッとなった。


〈そんなこと、できるわけない! 最初から無かった、だなんて〉


できない! 、とわたしは健ちゃんを思いっきりの力で押した。


それができていたら、今、ここにいる必要だってない。


浅瀬に尻餅をついた健ちゃんを睨み付け、わたしは何の躊躇もなくずんずん海へ入った。


わたしが一歩進むに比例して、水位も上がって行く。


穏やかな波をかき分けるように、ずんずん、突き進む。