恋時雨~恋、ときどき、涙~

忘れようともがけばもがくほど、想いはあふれる一方で。


まるで、蟻地獄だ。


〈どうすればいい?〉


もうどうにもならない事は分かっているのに、それでいて、諦める事ができなくて。


〈わたし、分からない……教えて〉


だって、ほら。


わたし、みんなとは違うでしょ。


みんなと同じように持っているけれど、わたしが持っている耳は、音を拾う事ができないでしょ。


だから、誰かに愛してもらえるなんて思ってもみなかったから。


真夏に大雪になるのと同じくらい、有り得ない事だと思っていたから。


〈どうすればいいのか、分からない〉


だから、わたしも、誰かをこんなにも好きになる日が来るなんて思ってもいなかったから。


分からないの。


恋の終わらせ方が、分からない。


だけど、それでも、わたしなりの精一杯だった。


わたしなりに、この恋に終止符を打ったつもりだった。


他の方法が思いつかなくて。


だけど、わたしなりに忘れようと思った。


だから、3年前、この町を出たのに。


〈健ちゃんから離れて、遠くに行けば……忘れられると思った〉


でも、違った。


〈離れてみたら、今度は恋しくて恋しくて、もっと好きになった〉


会いたくて。


だけど、会えなくて。


辛くて、切なくて、苦しくて。


〈あの日〉


この町を出て、上京した日。


〈東京は、雨だった。だから、わたし、誓ったの。雨に、誓った〉


やわらかな霧雨に濡れる王子駅で、誓ったの。


《……雨?》


と健ちゃんが同じ動作を繰り返す。


そう、雨。


わたしは頷いた。


《雨に……何を》


と聞いて来た健ちゃんがほんの少し、表情をこわばらせた。