恋時雨~恋、ときどき、涙~

「日曜日は、予定があるって」


静奈が言うと、健ちゃんは少し残念そうに「分かった」と言った。


断っておきながら、わたしは複雑だった。


12時半をまわった頃、仕事に戻るから、と健ちゃんが立ち上がった。


「じゃあ、またな」


健ちゃんは、わたしの頭を撫でて病室を出て行った。


せっかく誘ってもらったのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


でも、仕方のないことなのだ。


いい気になって、のこのこ出掛けて、迷惑をかけてしまうくらいなら、最初から断ってしまう方がいい。


やけに大人しいわたしに、静奈が訊いてきた。


「日曜日の予定って、何?」


そんなものは、最初からない。


わたしは、健ちゃんに、嘘をついたのだ。


〈本当はない。でも、わたしが一緒だと、健ちゃんに迷惑かけちゃうから〉



花瓶の水を変えようと思い、椅子から立ち上がったわたしの手を、順也が掴んだ。