恋時雨~恋、ときどき、涙~

《やめろよ……やめろ……何だよ、今更……頭がおかしくなったんじゃないのか?》


そう、なのかもしれない。


頭がおかしくなったのかもしれない。


この人のことが、好き過ぎて、おかしくなってしまったのかもしれない。


でも、どうにも止まらなくなってしまったのだ。


他に、思いつかないのだ。


愛している。


そんな言葉では足りないほど、この人が好きだ。


〈好きです。わたしだって、どうすればいいのか……〉


分からない。


健ちゃんへの想いがあふれてあふれて、大洪水だ。


《自分が何を言っているか、分かってるのか?》


分かっている。


分かっているのだけれど、でも、わたし……。


《勝手すぎるだろ!》


すごい剣幕で、健ちゃんが両手を動かした。


《勝手に終わらせて、勝手に……居なくなって……》


怒鳴るように動いていた両手が、次第に弱弱しくなった。


同時に、健ちゃんの表情も再び泣き顔になる。


《連絡は取れなくなるし……どこにいるのかも、分からなくなって……もう会えないと思って、忘れようとしているのに……来るし……》


たっぷりの涙が張りつめた目で、


《今更、何言い出すんだよ……》


健ちゃんがわたしを睨み付ける。


《3年だ。3年も経った……もう、遅い》


それも、十二分に分かっている。


だけど、ここまでぴしゃりと跳ね返されると、さすがにショックを隠し切れず、


〈そんな事、分かってるよ!〉


わたしは泣きながら、怒鳴り返すような手話をした。


分かっているのに、それでもあふれて来るこの感情は、どうすれば止める事ができるの。


だってもう、止まらなくなってしまったんだもの。


好きだと自覚したら、止めようがなくなってしまったんだもの。


〈でも、どうしたらいいの?〉


忘れたくても、忘れられなくて。