恋時雨~恋、ときどき、涙~

苦しくて、苦しくて、切なくて。


わたしはすがるように健ちゃんのワイシャツをたぐり寄せて、


〈……助けて下さい〉


泣き続けた。


もう、どうすればいいのか分からない。


ワイシャツを掴んで、わたしはうつむいた。


この人が、狂おしいほど、愛しくて。


苦しくて、たまらない。


ワイシャツを掴むわたしの手を、大きな手がすっぽりと包み込んだ。


顔を上げると、健ちゃんも泣いていた。


水面が淡くオレンジ色に煌めいている。


わたしはそっと彼の手を離して、指さした。


〈あなたが〉


健ちゃんが、わたしをどう思っているかなんて分からない。


そんなのは、知ったこっちゃない。


わたしを嫌いかもしれない。


でも、それも、知ったこっちゃない。


もう、我慢の限界だった。


親指と人差し指で喉を挟むように当て、前に出しながら指先をくっつける。


〈好きです〉


健ちゃんが目を見開いたまま固まった。


するり、と彼の頬をひと滴が伝い落ちて行く。


〈好きです。前より、もっと。くらべものにならないくらい。もっと、好きになってしまいました〉


好きで、好きで、好きで。


愛している、と手話しようとして、やめる。


そんな言葉では表しようがないくらい好きで、愛している、はやめた。


だけど、それをどう伝えたらいいのか分からなくて、結局。


〈好き〉


その動作を何度も、何度も、繰り返した。


夕日色に輝く波が寄せては返すように、何度も。