恋時雨~恋、ときどき、涙~

《分からない。突然、出なくなった》


わたしは、彼のワイシャツをむしるようにたぐり寄せ、


〈苦しい?〉


もう一度、彼の喉に手のひらを伸ばした。


覗き込んだ時、健ちゃんの目は涙でいっぱいで、真っ赤に充血していた。


瞬きをすると、大粒の涙が頬を伝い落ちていった。


そんなに、泣くくらい。


〈苦しいの?〉


たまらなくなって、わたしは彼の頬を濡らす涙を手のひらで拭った。


でも、見開かれたその目からはこんこんと湧き出るようにとめどなく涙があふれてくる。


拭いても、拭いても、拭いても。


信じられないほどの涙が次々とあふれてきて、どうにもならなかった。


でも、とても静かで温かくて、清らかな涙だった。


止まらない涙を拭い続けるわたしの両手を捕まえて、健ちゃんはその顔を隠すようにうつむいた。


砂の上にぽつぽつと涙を落とし、しばらくしてようやく、健ちゃんがわたしの目を見上げた。


瞬きをした健ちゃんが、小さく首を振る。


《苦しくない》


健ちゃんの手が、ゆっくり動き出した。


《思っていたより、全然、苦しくない》


〈ウソ! 健ちゃん、嘘を……〉


《嘘じゃない。想像していたより、ずっと、楽だ》


次第に、両手の動きは加速していった。


きみが、と、健ちゃんがわたしを指さす。


《声の事、誰から聞いたか分からないし、何を言われたか知った事じゃないけど。自分のせいだとでも?》


わたしが頷く前に、もしそう思っているのなら、と先に健ちゃんが首を振った。


《それは、違う。勘違いするな。きみのせいじゃない。誰のせいでもない》


しつこく降り注ぐ夕日が眩しくて、わたしは目を細めた。