恋時雨~恋、ときどき、涙~

「……、……」


また、咳き込む。


わたしは、咳き込む健ちゃんの背中をさすった。


もう一度、何かを言おうとして、健ちゃんの口が薄く開きかけたとき、わたしは息をのんだ。


ま。


お。


健ちゃんは、さっきよりも激しく咳き込んだ。


そして、うつむいたまま唇を震わせていた。


健ちゃん……。


この感情を、どう説明したらいいだろう。


言葉にするには、あまりにも難しい。


わたしは震える手を伸ばし、おそるおそる、その頬に触れた。


ひんやりと冷たい頬だった。


びく、と背中を波打たせ顔を上げた彼を見て、胸を突かれた。


その瞳はもう、涙でいっぱいだった。


それはあっという間に膨れ上がり、そして、重力に逆らえなくなり、ついにぼろりとこぼれ落ちた。


大粒の涙が、シャープなラインの顎に滴を作る。


健ちゃんが、薄く口を開く。


わたしは無意識の中、手のひらでその口を塞いでいた。


健ちゃんが涙でいっぱいの目を大きくした。


もう、十分だと思った。


もう、いいよ、健ちゃん。


切なくて、苦しくて、内臓がつぶれてしまいそうだ。


健ちゃんの目から次々にあふれる涙が、わたしの指にも触れる。


わたしは、そっと首を振った。


もう、いいから。


手のひらを口元から下へ移動させ、わたしは、彼の喉ぼとけに触れた。


〈本当なの?〉


喉ぼとけが上下に動く。


彼の頬を流れる涙が、わたしの手の甲に落ちる。


〈声……出ないの?〉


健ちゃんは眉間にしわを寄せ、涙をあふれさせながら小さく頷き、わたしの手を掴むと喉からはがした。


もう一度、健ちゃんは頷いた。


ぽと、と健ちゃんの手の甲に落ちたのは、わたしの涙だった。


〈……どうして?〉


聞きながら、涙が止まらなかった。


健ちゃんがふるふると首を振る。