恋時雨~恋、ときどき、涙~

これ以上の幸せを望んだりしてはいけない事くらい、分かってはいたけれど。


でも、わたしは、望んでしまった。


〈あなたとなら、幸せになれると思った〉


健ちゃんとなら、どんな困難も越えてゆけると思った。


〈もっともっと、幸せになれると思って、欲が出てしまった〉


欲張ってはいけないことは、分かっていたはずなのに。


〈大きな幸せなんていらない。ただ、このままふたりで、ずっと一緒に居られたらそれでいいと……そうでありたいと〉


だから、神様は、わがままで欲張りなわたしに呆れて、ついに愛想を尽かしてしまったんだ、きっと。


〈何も無くても、ただ一緒に居られたら。それが、わたしの夢になった〉


夢を見たりするから、罰が当たってしまったんだ。


絶対。


〈でも、やっぱり……夢は、夢だった〉


結局、わたしはこの人を苦しませる事しかできなかった。


〈わたし、彼を、傷つけることしかできない〉


わたしは、すでに原型をとどめていない、今にも溶けてしまいそうに歪んだメッセージカードを差し出して、


〈この人は〉


と滲んだインクをなぞった。


【よわむしのライオンより】


〈わたしの、いちばん、大切な人なのに〉


突然、健ちゃんがわたしの手首を掴んだ。


彼の顔を見て、わたしは静かに息を殺した。


鉄仮面のように凍てついていた表情が、ゆっくり、本当にゆっくりと崩れていった。


まるで、3月の雪解けのように、少しずつ、ゆっくり。


息をひそめながら見ていると、彼の瞳に透明な膜が張りつめてきて、ふくらんでいった。


黒曜石がゆらゆら、揺れている。


わたしは目を見開き、健ちゃんの口元を食い入るように見つめた。


「……――」


健ちゃんは瞳に涙の膜を張りながら何かを言おうとし、突然、咳き込んだ。


苦しそうに咳き込み、でも、顔を上げて、


「……、……」


だけど、どうしても声にならない様子で、唇を震わせていた。


不純物を丁寧に濾過したような澄んだ瞳が、わたしを捉える。


「……」


何かを言おうとして、口を開きかけては、また咳き込む。