恋時雨~恋、ときどき、涙~

順也は埴輪のような間抜けた顔をしたけれど、すぐに笑った。


同時に、静奈も。


わたしは、静奈の笑顔を手のひらであおいだ。


〈静奈〉


静奈はハッとしたあと、にっこり微笑んだ。


わたしは、健ちゃんの背中を指差した。


〈何て、言ったの?〉


静奈の華奢な指が動く度に、右手にリングが細かく輝く。


「今度の日曜日。順也の大切な妹を、1日、かしてくれないかって言ってる」


静奈が健ちゃんを指差した。


わたしと目が合うと、健ちゃんはにっこり笑った。


健ちゃんは右手の人差指と中指を立てながら、わたしに言った。


「日曜日、2人で、どっか行こう」


わたしは、首を振った。


家族や順也や静奈以外の人と、どこかへ出掛けたことはない。


確かに、健ちゃんが言うことは唇を読めば、だいたいは理解できる。


でも、健ちゃんは手話が分からない。


いちいち筆談しながら出掛けるなんて、絶対に、迷惑をかけるに決まっている。


わたしは、静奈に通訳をお願いした。