恋時雨~恋、ときどき、涙~

本当に。


迷惑な話だ。


この人が苦しむ姿なんて、見たくもないのに。


無邪気なライオンのように、大きな口を開けて笑う姿を見たいのに。


でも、わたし、出逢った時から、ずうーっと。


〈わたしは、あなたを、苦しめてばかり〉


いる。


でも、それでも、どうしても忘れられたくなくて。


忘れられてしまうのが怖くて。


健ちゃんの記憶から消されてしまうことが、とてつもなく、怖くて。


健ちゃんの記憶から消されてしまったら、わたし、きっと、本当に消えてしまうんじゃないかって。


そう、思う。


難しい顔でわたしを見つめる彼に、涙を堪えて、微笑んでみる。


〈わたし、いつも、考えていた〉


ぽつりと、健ちゃんの髪の毛から落ちた水滴が砂の上に落ちて、吸い込まれていった。


〈どうして生まれて来たのかって、いつも〉


いつも、不思議でたまらなかった。


〈耳が聞こえないのに、どうして生まれて来てしまったのかと、この命を恨んだりもした〉


健ちゃんの目尻がぴくりと動いた。


〈ずっと、思っていた〉


平気なふりをして笑っていたけれど、いつも、思っていた。


〈わたしの存在に意味はあるのか。わたしの命に、価値はあるのか、と〉


そして、神様を憎んだ。


耳が聞こえないわたしを、何のためにわざわざ、音であふれている賑やかであろうこの世界に生かしたのか、と。


〈生まれて来なければ良かったと思った。わたしは、生まれて来るべき命ではなかったのではないかと〉


《何……ばかなこと……》


もうそれ以上言うな、と健ちゃんがわたしの手を捕まえようとする。


〈でも〉


それをするりとかわして、わたしは続けた。