恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、


〈健ちゃん〉


落雷に打たれてしまったように固まる健ちゃんの顔を扇いだ。


〈わたし、本当に、この町へ来るつもりはなかった〉


順也にも静奈にも、幸にも。


会う気はなかった。


ずうずうしく、会えるわけがないと思っていた。


会えない、そう思っていた。


だけど、そんなわたしの心を動かしたのは、先月届いた、このメッセージカードだった。


〈今、ここに居なかったと思う〉


わたしは、健ちゃんにメッセージカードを差し出した。


〈あなたが、これを、わたしに宛てたりしなければ。このメッセージを、わたしに宛てたりしなければ〉


この町へ来ることはなかった。


健ちゃんに、会うこともなかった。


〈あなたが〉


とわたしが指さすと、


《……違う》


健ちゃんは首を振った。


《これは、おれが書いた物じゃない。何かの間違いじゃないのか》


まるで、現実から目を背けるように健ちゃんは首を振り続け、だけど、


《……なぜ、きみが》


途中で手話を止めて、うつむいて、唇を震わせ始めた。


わたしは、うつむく彼の肩をひとつだけ叩いた。


びくりと体を硬直させたあと、健ちゃんは本当にゆっくりと顔を上げた。


〈順也が、拾ってくれた〉


え、と健ちゃんが目を見開く。


〈わたしたちの終わったはずの恋を、順也が拾ってくれた〉


あの日、駅のごみ箱から、順也が拾ってくれた。


本当は終わったはずの、わたしたちの、運命を。


〈そして、幸が、繋いでくれた〉


たくさんの人たちがリレーをして、わたしに届けてくれました。


わたしがこの町へ置き去りにした恋を、健ちゃんが後始末してくれて。


それを、順也が拾ってくれて、幸が繋げてくれて、タケハナ少年が届けてくれて。


この3年という歳月をかけて、みんながリレーでつないでくれた。