恋時雨~恋、ときどき、涙~

いつまでも居座り続けて、ごめんなさい。


迷惑をかけてばかりで、ごめんなさい。


〈ごめんなさい〉


もう一度謝ると、健ちゃんは首を振った。


《謝る必要もない》


健ちゃんの手が伸びて来て、わたしの頬を伝う涙をすくい取る。


《悪いのは、きみじゃなくて、おれだ》


全部、おれの問題だ、と健ちゃんは自身に言い聞かせるように、ゆっくりと頷いた。


〈でも、わたし〉


と言い返そうとしたわたしの手は、突然、言葉を見失い、止まってしまった。


わたしを映す彼の目がとても真っ直ぐで、もう、何も返す事ができなかった。


空の袂が、真紅に染まっている。


水面をオレンジ色に輝かせている夕日が、また一段、低い位置へと移動していた。


うつむき加減のわたしを、大きな手が扇ぐ。


顔を上げると、健ちゃんは言った。


《きれいに、なったな》


え? 、と首を傾げると、その表情はいくらか穏やかなものに変わっていった。


《東京へ行くと決めた、きみ。もう、戻らないと、きみ》


健ちゃんがわたしを指さす。


《頑張れと背中を押した、おれ。負けるなと、幸せを祈った、おれ》


あの日のおれ、少し、かっこよかっただろ。


と、肩をすくめた健ちゃんの両手は、少しおしゃべりになった。


《あれから、3年》


わたしは頷いた。


《今日、ここへ、この町へ。きみが来なければいいと思っていた》


でも、と健ちゃんは手のひらを返して、わたしに手の甲を向けた。


《遅れて、礼拝堂に駆け込んで来たきみを見た時、分かった》


〈……何、を?〉


一拍あってから、健ちゃんは続けた。


《本当は、嬉しかったんだ。本当は、きみに、会いたかったのだと、その時に、分かった》


絹糸のようなやわらかな風が吹いて、水面を揺らした。


《もう一度だけでいいから、きみに会いたいと、本当はいつも、そんなことを思っていた》


無表情なまま、健ちゃんが《きみに会いたかった》と私を指さした。