恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんは真っ直ぐわたしの横に来て、わざわざ顔を近付けて「よう」と言った。


わたしが頷くと、健ちゃんはすかさず額にデコピンをした。


「何、話してんの? めちゃくちゃ楽しそうだんけ」


わたしはとっさにうつ向いて、胸を押さえた。


心臓の辺りで、子うさぎが飛び跳ねたのだ。


健ちゃんが、わたしの額を人差指で上げた。


「こら、無視すんな」


わはははは、と笑った健ちゃんの口元で、八重歯が輝いていた。


健ちゃんは、大きな紙袋を順也の足元に置いた。


順也が好きな、H2、スラムダンク、シュート、などの漫画だった。


きっちり全巻揃っているようだった。


「入院生活は暇だろ? おれのお宝、しばらくかしてやるんけ。無料だぞ」


順也はベッドに横になったまま「ありがとう」と笑った。


でも、漫画をかす代わりに条件がある、と健ちゃんが言った。


わたしと静奈は首を傾げて、見つめ合った。


健ちゃんは両手を顔の前で合わせて、何かを言いながら順也に頭を下げていた。