恋時雨~恋、ときどき、涙~

全て、わたしが勝手に終わらせたはずの、恋だった。


だけど、誰よりも終わらせようとしていなかったのも、わたしだ。


そのわたしが終わらせない限り、何年経っても、この恋は終わらない。


わたしのこの執念深さと、諦めの悪さが、彼を苦しめていたのだ。


きっと。


気配に気づいたのか、健ちゃんが振り向こうとした瞬間、わたしはその背中を力の限り突き飛ばした。


健ちゃんは体勢を崩し、前のめりになり、そのまま正面から倒れ込んだ。


中途半端なしぶきが上がり、飛び散る。


浅瀬に両手両膝をつき四つん這いになった健ちゃんが、一瞬固まったあとすっと立ち上がって、わたしを睨んだ。


凍てついた、氷のように冷たい目だった。


〈よわむし!〉


わたしの手話を見て、健ちゃんが眉頭を寄せた。


《悪かったな、よわむしで》


冷酷冷血に空を切る健ちゃんの手から水滴が飛んできて、わたしの頬を叩いた。


もう、きみには関係ない事だ、そう言って、健ちゃんは疲れたように息を吐き出した。


《お願いだから》


健ちゃんが両手を合わせる。


《二度と、おれの前に現れないでください》


お願いします、と頭を下げる彼の黒髪から、ぽつぽつと水滴が落ちては水面に小さな円を描く。


涙みたいだと思った。


す、と顔を上げた健ちゃんに、わたしは怒鳴るように手話をして、


〈分かった!〉


その胸を両手でど突いた。


再び、健ちゃんが浅瀬に尻餅を着いた。


〈もう、現れません! 健ちゃんがそう、望むなら〉


わたし、もうここへは来ません。


カッとなった。


訳もなく、唐突に涙があふれた。


胸が、つぶれそうだ。


〈健ちゃんの前に、現れません!〉


そんなに会いたくないなら、会いません。


心配しなくても、明日、東京へ帰ります。


そして、この町には戻りません。


もう、二度と。