恋時雨~恋、ときどき、涙~

《もう、会わない》


息を飲み込むことすら困難で、わたしはただ立っていることが精いっぱいだった。


真上から、絶望が落下してきた。


その衝撃は尋常ではなく、あふれて止まらなかった涙が一瞬で止まってしまったほどだった。


《今日を、最後の日に、しよう。きみとはもう、会わない》


なんとなく、分かってはいたのだ。


そういう事を言われる気はしていた。


だけど、受け入れる事がたまらなく嫌で、わたしはうつむいた。


この現実から、目を反らしてしまいたかった。


最悪だ。


大嫌いだ、顔も見たくない。


そう言われるよりもっと、くらべものにならないほど、その一言の破壊力は凄まじいものだった。


もう、会わない。


ショックの領域なんて、遥かに超えていた。


うつむくわたしの顔を、大きな手が扇ぐ。


ゆっくり顔を上げると、健ちゃんはやっぱり鉄仮面で、わたしを指さしていた。


《もう、いいかげん、幸せになれ》


な、と健ちゃんはまるで自身にも言い聞かせるかのように、ひとつ、頷いた。


無反応のわたしに大きな手がぬうっと伸びて来て、濡れた頭のてっぺんをしなやかに弾いた。


その小さな小さな衝撃で、ため込んでいた涙が落ちた。


《幸せになれ》


健ちゃんがわたしに背中を向けて、遠ざかって行く。


遠ざかる後姿を見つめながら、わたしはひまわりの髪飾りを握りしめた。


どうすればいいの。


わたし、どうすれば、幸せになれるの。


幸せになれ、と、あなたは簡単に言うけれど。


幸せになる方法なんて、わたし、知らない。


教えて下さい。


人は、何をどうすれば幸せになれるのか。


教えて下さい。


健ちゃんの足が水をかき分けると、そこだけ、光が強く屈折した。


光の欠片が、目に染みる。


その時、順也の言葉が脳裏をよぎった。


全身全霊でぶつかっていけばいいじゃないか。


ぼくじゃなくて、健太さんに。