恋時雨~恋、ときどき、涙~

でも、と健ちゃんは、


《本当は、おれがいちばん矛盾しているのかもしれない》


と都合悪そうに肩をすくめた。


《忘れられるか、自信ない》


そして、夕立でずぶぬれのスーツのポケットに手を突っ込んで、何かを取り出し、


《結局、捨てられないんだ。結局》


と、それをわたしの手のひらに乗せた。


わたしは、目を見開いた。


手のひらの上で、それは、夕日を弾き返して輝いていた。


〈これ……何で?〉


それは、さっき、健ちゃんが海に捨てたはずのひまわりの髪飾りだった。


なぜ! 、とまくし立てるようにわたしが詰め寄ると、健ちゃんが背中を丸めた。


《捨てる事ができないんだ。だから、さっき拾った貝殻を、代わりに捨てた》


〈なぜ!〉


わたしが一歩、詰め寄る。


健ちゃんが一歩、後退する。


《捨てられる物なら、もうとっくに捨てていた。でも、捨てられない。おれには、そんな勇気も強さもない》


これは、と健ちゃんがわたしの手のひらを指さす。


《きみが、捨てて》


水でふやけた手のひらに乗ったひまわりの髪飾りが、やけにキラキラ輝いて見えた。


わたしは首を振った。


できない。


〈捨てるなんて、できない〉


それならそれでいい、と健ちゃんは続けた。


《持っていればいい。そして、捨てたくなったら、捨てるといい》


どう反応すればいいのか、分からない。


目の前に居るのは間違いなく健ちゃんなのに、まるで知らない人だ。


冷酷な、鉄仮面みたいだ。


茫然とするわたしに、鉄仮面は、


《これは、好きにすればいい。持っていても、捨ててもいい》


だけど、まるでやわらかく微笑むような両手の動きで語りかけて来る。


半分、鉄仮面で、半分は、健ちゃん。


そのやわらかな動きの手に、涙があふれて、どうにもならなかった。


だけど、やっぱり、冷酷な鉄仮面だった。