恋時雨~恋、ときどき、涙~

海水が押し寄せてくる。


足元で、砂がくるくる回る。


だた、無情に、涙ばかりがあふれる。


《きみは泣いてばかりいる。出逢った時から、いつも。でも、たまに笑う。だけど、気づけばいつも、泣いている》


まるで、時雨だ、と健ちゃんの手が言った。


きみが笑うと、お日さまが出る。


きみが落ち込むと、雲が流れ込んでくる。


きみが涙の時は、雨が降る。


きみは、雨みたいだ、と。


《出逢ってから、ずっと》


わたしは脱力感たっぷりの腕にムチを打って、涙を拭った。


《もう、泣くな。雨を降らせるな。今、楽にしてやる》


そう手話をして、健ちゃんは不思議な動きを始めた。


無表情なピエロが、パントマイムをするかのように。


健ちゃんが右手で、見えない小さな物をつまむ。


《これ》


とつまんだそれを、左の人差し指で指す。


《消しゴム》


〈けしごむ?〉


訊ねると、健ちゃんはこくと頷いて、今度は指文字をした。


《ご、し、ご、し、ご、し、ご、し》


何?


わたしは首を傾げた。


《消しゴムが擦れる、音》


そうなんだ。


で、と健ちゃんはジェスチャーを続けた。


《この消しゴムはすごい。何でも消す事ができる、魔法の消しゴム》


そして、その透明な消しゴムで、わたしの頭上を擦り始めた。


ごしごし。


ごしごし。


左右上下、まんべんなく、透明ま消しゴムがわたしの頭上を往復する。


しばらくそのジェスチャーを繰り返したあと、健ちゃんは言った。


《今、消したから》