恋時雨~恋、ときどき、涙~

《きみは、やっぱり、強いな》


健ちゃんの手が、言った。


《そんなふうに思えるきみが、うらやましい》


時々、言葉を詰まらせるように動く、彼の手に夕日が降るように当たっていた。


《分かっていた。永遠なんて、存在しない。そんな事は分かっていた。それでも……信じていた》


健ちゃんが眩しそうに目を細める。


《きみと過ごしたあの日々は、おそらく、夢か幻だった》


違う。


違うよ。


夢でも、幻でもない。


わたしは必死に首を振って、否定した。


〈わたしたちは、確かに、一緒にいた〉


果たして実際のところどうだろうか、そうだろうか、とでも言いたげに、健ちゃんは手話を続けた。


《いつの間にか、きみの居ない風景にも、毎日にも、馴れた。そして、それが当たり前になっていった。何より、それが、いちばん怖かった》


胸が、締め付けられる。


窒息してしまうかもしれない。


わたしは、大きく深呼吸をした。


《記憶を、想い出だと言えるきみは、強い。うらやましいと、思う》


浅瀬を駆け抜ける風はひんやりしていて、少し、背中がぞくぞくした。


両手も、震える。


〈健ちゃんは……想い出だと思えないの? 記憶、なの?〉


やや間があったあと、健ちゃんは何かを確かめるようにこくりと頷いた。


胸が張り裂けそうになる。


《想い出、なんて。そんな一言で終われるほど、おれは、強くない》


健ちゃんは凍てついたような無表情なのに、その両手の動きはとても苦しそうだったから。


〈わたしは〉


と反論しようとするわたしが目に入っていないかのように、健ちゃんは続けた。


《勝手に、想い出に、しないでください》


きみにはもう想い出かもしれない、でも、と健ちゃんは手のひらを返すジェスチャーをした。