恋時雨~恋、ときどき、涙~

トパーズがばらばら降るような神秘的な夕立に、過去が重なって見えた。


わたしも健ちゃんも、お互いに目を反らさなかった。


先に短い沈黙を破ったのは、わたしの手だった。


〈わたし、ばかみたい〉


なぜ、こんな簡単な事に、気づけなかったのだろう。


わたし、東京で、何をしていたんだろう。


気付こうともせず、大切な過去を、あんなに血眼になって忘れようと必死になっていたのだろうか。


どうせ、始めから、忘れられない事は分かっていたはずなのに。


健ちゃんの真っ黒な髪の毛先から、水滴がしたたり落ちる。


〈この3年間、わたし、うつむいてばかりだった〉


健ちゃんを指さす。


あなたを。


〈忘れようと、そればっかりで、何も見えなかった〉


ばかみたいだ。


どれほど幸福に満たされた想い出も、色褪せて、いつかは幻だったように消えゆくものだと思っていた。


切なくて、苦しい想い出なら、なお。


ばかみたい。


〈あれから、何ひとつ忘れられずに、3年が過ぎてしまった〉


健ちゃんとの恋を忘れようとして、365日を、3度、繰り返した。


忘れようとして、諦める事すらできずに。


みっつの歳を重ねた。


〈いつかは、色褪せて、そして、無色になって、忘れる事ができると思っていた〉


離れて、もう会う事も無くなれば、必ず記憶から消えて行くと思っていた。


時が経てば経つほど、想い出は色を失って行くから、平気だと。


だけど、違うんだね。


〈3年も経つと、想い出って、きれいな色になって行くんだね〉


セピア色に。


トパーズのように、輝くんだね。


それで、ひだまりのように、心に残っていくんだね。


〈やさしい色に、なるんだね〉


健ちゃんの瞳が、くるんと動いた。


健ちゃんがわたしを指さした。