恋時雨~恋、ときどき、涙~

そして夕立は、忽然と姿を消すように空の彼方へ上がり、美岬海岸の浜に涼風をもたらした。


わたしたちはひっくり返ったドラム缶の水を浴びたように茫然として、浅瀬に浸っていた。


雨が、上がった。


雨上がりの空は完璧に澄み切っていて、今度は夕日の暖かさに目がくらんだ。


激しい夕立を浴びた体は冷え切っているはずなのに、きつい夕日が心地いいほど温かい。


もしかしたら、今の夕立がわたしの体と心に蓄積されていた毒素を根こそぎ洗い流してしまったのかもしれなかった。


あほくさくて、ばかばかしくて、体から要らない力が吸い取られるように抜けて行くのが分かる。


空も水面も水平線も、ずっと見て来た風景のはずなのに。


夕立の後の景色は、一変して見える。


わたしは辺りをぐるりと見渡した。


たぶん、なのだけど。


わたし、分かった気がする。


健ちゃんの横顔を見つめる。


健ちゃん。


わたし、宇宙一の恋に落ちてなんかいない。


わたし、世界一の恋なんて、していない。


だけど、確かに、恋に落ちたし、恋をした。


いつも、切ない雨に濡れた恋だったけれども。


でも、恋をした。


誰にも負けない、恋を、した。


一生に、一度の、恋を、したの。


水面が夕日を跳ね返す。


不意に、健ちゃんがこっちを向いて、目が合った。


その目を見た瞬間、わたしは小さく息を飲んだ。


……泣いて、いるの?


健ちゃんの目は、うさぎのように赤く充血していた。


健ちゃんが、わたしを指さす。


《きみの、手を》


わたしの、手?


わたしは自分の手のひらを見つめて、すぐに視線を彼に戻した。


健ちゃんが小さく頷く。