恋時雨~恋、ときどき、涙~

ばらばら、ばらばら。


朱色に、オレンジ色に、金色に、緋色に。


さまざまな色に変色し、それを繰り返しながら、雨粒が水面を叩く。


勿体無くて、いたましくて、この光景を独り占めにしてしまいたかった。


それこそ、この光景をパンドラの箱に詰め込んで、鍵をかけてしまえたらどんなにいいだろう。


ふと、横を見る。


健ちゃんは雷に打たれたかのように、微動だにしない。


まるで、魂を抜かれたかのように放心状態になって、浅瀬に沈みながら静かに光景を見つめている。


押し寄せる雲の切れ間からオレンジ色の光が数本の筋になって、水面に降り注ぐ。


夕日が空の袂を真紅に染め、上に昇るにつれて朱色、薄紅、赤紫、紫、青紫、とグラデーションを描く。


陽の光を吸収し雨粒が宝石のようにばらばら落ちて来て、水面を叩く。


それはまるで、トパーズを散りばめたような輝きで、うかつに瞬きなんてできなかった。


黄金色のトパーズが、呆けるわたしたちに落ちて来る。


その情景は、不思議なほどわたしの荒れた心を浄化していった。


世界が、トパーズの色に染まって行く。


あ、と思った。


わたし、この色を、知っている。


もう一度、隣に視線を戻す。


健ちゃんが、右手を夕日にかざしていた。


今にも泣き出しそうな目をして。


初めて会った日を、あなたは、覚えている?


『耳が聴こえないのって、どんな感じ?』


こんな、色。


初めて会ったあの日、健ちゃんの瞳は、トパーズのように輝いていた。


『音がない世界って、どんな感じ?』


わたしは、夕日に右手をかざす健ちゃんの横顔に話しかけた。


〈あなたは、覚えている?〉


わたしは、覚えている。


『友達になってくれますか?』


まるで突き上げるように、胸の底から、過去たちがよみがえった。


今、水面を叩いているトパーズ色の雨粒ひと粒ひと粒が、過去になってわたしに降り注いだ。