恋時雨~恋、ときどき、涙~

世界が時を、止めた。


そんな気がした。


途切れることなく、持続的に、絶え間なく、ここに吹いていた風が、時を止めた時計の秒針のように。


風が、やんだ。


上空は神々しい光に包み込まれている。


まばゆくて、わたしは瞬きを繰り返した。


きれい、だなんて。


そんなたった3文字では説明がつかない。


美しい、とたった一言では筆舌に尽くしがたい。


なんて、風光明媚な色なのか。


見上げた空には何とも説明しがたい、ガラス細工のような、儚く脆い美しさがあった。


清楚かつ優雅で、エレガントなオレンジ色の夕日。


黄昏る前の夕日を吸収して幽玄な色に変色した、雨雲。


ふたつがマーブル状に絡み合い溶け合いながら、上空に広がっている。


オレンジミルク色の空は、泣きたくなるほど、優しい色をしている。


ぽつ。


頬に、鼻に、額に。


ぽつぽつと落ちて来たのは、ついに降り出した、大粒の雨だった。


それは、突然だった。


卒然と、出し抜けに。


ミステリー小説の流れがクライマックスになって、意外な展開へと一変したかのように。


一気に、どしゃ降りになった。


何十年もの歳月、我慢していた感情が爆発したかのような、まるで滝のような雨だった。



バケツの水をひっくり返したような降り方に、わたしは立ち尽くした。


お天気雨が、わたしを叩くように降り注ぐ。


ほら、見ろ、とでも言いたげに、健ちゃんが向かって来る。


健ちゃんはゲリラ豪雨のような夕立の中、立ち尽くすわたしの腕をぶっきらぼうに引っ張った。


離して!


瞬時にその手を振り切った時、雨の風景がぐらりと歪んだ。


まるで、磁石のS極とN極がケンカして反発しあうように、わたしたちはお互いに弾かれて、バランスを崩した。


海水が、足をとらえる。


あ、と思った時にはもう、わたしも健ちゃんも浅瀬に尻餅をついていた。


下半身は、海の中にあった。