恋時雨~恋、ときどき、涙~

真っ黒な髪の毛先が、濃ゆいワインレッド色に透けて風になびく。


健ちゃんの背中を見つめて、わたしは、静かに泣いた。


浅瀬まで戻って来た時、不意に、健ちゃんがその足を止めた。


まるで、誰かに呼び止められたように。


弾かれたように、健ちゃんが振り向いた。


……何?


健ちゃんが眩しそうに目を細めて、空の袂をじっと見つめる。


沈みかけの夕日が、水面に一本の朱くやわらかな道を作っていた。


空の袂は燃えるように朱く、厳かに染まっている。


瞬間、ピカ、と空の袂がカメラのフラッシュのような光彩を放った。


雷だ。


すぐに分かった。


シャープで短命な強い光に、思わず目を細める。


ぴか。


ぴか。


ぴか。


立て続けに、発光する水平線。


水面が朱色に輝きながら、大きく揺れ始めた。


その美しさは、息をのむほどで。


美しすぎて、なぜだか、ひどく泣けてたまらなかった。


わたしの頬を、涙がとめどなく伝い落ちて行った。


雷、か。


『雷、こわくないのか?』


怖くない。


だって、きれいだから。


きれい、だから。


人魚姫さま。


あなたは、幸せだったのでしょうか。


海の泡になっても幸せだったと、胸を張って言えるのでしょうか。


わたしは掴まれている方とは逆の手で、喉にそっと触れた。


きっと、ここに。


わたしには、声があります。


だけど、出し方が分からないので、出す事ができません。


だから、好きな人に、ごめんなさいもありがとうも、好きだとも言う事ができません。


声を持っているはずなのに。


想いを、声に乗せることができません。


好きな人が、今、隣にいるにもかかわらず。