恋時雨~恋、ときどき、涙~

両腕が鉛のように重たくて、動かそうにも、上がらない。


自分に、ほとほと、呆れ果てる。


わたし、何を勘違いしていたのだろう。


今、彼の手が言った事は正当なもので、確かなことだ。


全部、わたしが勝手に終わらせたんじゃないか。


急に虚しくなって、わたしはうつむいた。


わたしの手をとり、健ちゃんが引く。


抵抗する気力さえ、わたしにはなかった。


涙で、世界が滲んで行く。


わたしは引かれている方とは逆の腕で、こっそり、涙を拭いた。


潮辛い、海の匂いがますます涙を誘う。


海水の中で、健ちゃんの真っ黒な革靴がつやつや光っているのが見える。


健ちゃん。


わたしたちはもう、伝えあうこともできないんだね。


もう、どうにもならないんだね。


もう、友達に戻ることすら、叶わないんだね。


こうなるなら、どうせこうなってしまうのなら、3年前、もっとしっかりお互い納得行くまで話し合うべきだった。


さよならさえ中途半端で、後悔ばかりが大きくて。


勇気を出してもこんなんじゃあ。


どうしようもないね。


海に沈んだまま見つけてもらう事すら叶わない髪飾りのように。


いつか、何も無かったように、風のように消えてしまうのかな。


わたしたちの、恋も。


海の泡になって、消えて行くのかな。


人魚姫のように。


わたしの腕を引く健ちゃんの手が、ひやりと冷たい。


いつも、温かい手をしている人だったのに。


知らない人みたいだ。


わたしは、健ちゃんの後姿を目の当たりに、思い知らされた。


初めて出逢った日。


眩しい夏の陽射しを弾き返してぴかぴかに光っていた、キャラメル色の爆発頭を見て、わたしはこっそり笑った。


へんな男の人だ。


ライオン丸。


だけど、もう、違う。


朱色の夕日を吸収してつやつやに煌めく、真っ黒な整った髪の毛を見て、わたしはこっそり泣いた。


素敵な男の人。


もう、ライオン丸じゃないや。


わたしも、あなたも、あの頃とは違うんだね。