恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんは、革靴のままだった。


離して、と掴まれた腕を振り下ろしたけれど、健ちゃんはわたしの腕を離さなかった。


わたしを引っ張り、砂浜に戻ろうとする。


わたしは、ありったけの力で、その手を振りほどいた。


健ちゃんの顔に、海水が飛び散る。


うざったそうに顔にかかった水をスーツの袖で拭い、健ちゃんが睨んで来る。


乱暴でがさつな女だと思ってくれてけっこう。


どうせ、こうする事でしか、わたしは感情を出す事ができないのだ。


何とでも思えばいい。


〈わたしに構わず、帰ればいい!〉


何よ。


いかにも心配かけるな、みたいに、靴のまま海に入って来たりなんかして。


そんな冷たい目でわたしを見るくせに。


本当は……面倒くさいと思っているくせに。


わたしは、健ちゃんを睨んだ。


〈わたしはもう、諦めたりしない〉


小さなころから、たくさん、いろんな事を我慢して諦めてきたけれど。


もう、そういうのは、うんざり。


健ちゃんは変わってしまったのかもしれないけれど、わたしだって変わったの。


諦めない。


〈髪飾り。見つけるまで、わたし、帰らない!〉


もう、意地でしかなかった。


放っておいて、と健ちゃんの肩を乱暴に突き飛ばして、わたしは再び沖の方へと進んだ。


海水に両手を突っ込む。


手当たり次第に、砂をかき分ける。


ない。


額に滲む汗をぬぐう。


どうして、ないの。


こぼれる涙を拭って、また水に手を突っ込む。


はっとした。


その腕を掴まれた。


顔を上げると、やっぱり健ちゃんだった。


いちいち、わたしに構うことないのに。