恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしを抱き締めているのは間違いなく、静奈なのに、わたしの頬は茹だっているように熱かった。


あの日の事を、思い出してしまったからだ。


「なにー! まさか、付き合ってるの?」


と順也の唇が動いた。


わたしはとっさに立ち上がり、慌てて首を振った。


〈違う! そんなんじゃない。わたしが、泣いたから〉


「真央が? ぼく以外の人の前で泣くなんて、珍しいね」


順也はぽかんと口を開けたまま、固まってしまった。


わたしが叩こうとすると、静奈はそれをひょいとかわした。


「真央たち、怪しいよ」


〈だから、違う〉


もうじき、8月が終わる。


晩夏の、緩くしぶとい暑さが立ち込める病室は、賑やかだった。


でも、わたしは少しへんだった。


わたしの身体のどこかに、小さな子うさぎがいるのだ。


健ちゃんが話題に出てくると、わたしの心臓が子うさぎのように飛び跳ねる。