恋時雨~恋、ときどき、涙~

まだ少しふて腐れるわたしを乗せた白い車が、美岬海岸に到着したのが分かった。


ウインドウから入ってくる西風の潮の香りが、一気に濃くなったからだ。


向こうにヨットハーバーが見える。


その奥の防波堤で、釣りをしている大人がいた。


穏やかに凪いだ海面にプリズムしている西陽を見つめて、わたしは自分の心も穏やかに凪いでいる事に気付いた。


美岬海岸に到着し、車を降りた静奈は西陽に向かって駆け出した。


西陽の手前に順也が居て、手を振っているのが見える。


遠目からでも、順也の手は大きく見えた。


高校1年生の秋から付き合っているふたりは、何年経っても色褪せない。


静奈が駆けて行ったのは、濃い夕陽に照らされた波打ち際に近い砂浜だった。