「急に静かになったね」



と、市哉が落ち着いた声で言う。



さっきまでは大声で話さないと声が届かないほどだったのに、今はほんの小さな囁きでさえも、相手に聞こえそうなほど静かになった。



すると、紫は突然市哉が近くに感じられ、意識してしまった。



せっかく人混みから抜け出たというのに、緊張のせいか、妙な汗が背中を伝う。



つい数秒前まで、人混みの中を肩がくっつくくらいの距離で歩いていたことが信じられないほどだった。



心臓の音まで聞こえてしまいそうで、紫は市哉に背を向けた。