「え?」 「さっき、悪びれないのね、とかなんとか言ったろ」 「……」 診療所を抜け出した市哉への皮肉。 しっかり聞こえていたのだ。 少年とのやり取りを微笑ましく見た後だけに、紫は少しバツが悪いような気持ちになったが、すぐに負けじと胸を張った。 「あら、だって本当のことだわ」 こんな日は怪我人の急患が多いに違いないのに、残された兄の和哉がかわいそうだ。