「和哉さんに黙って来たの?」 (こっそりというわりに、しっかり浴衣まで着ちゃって…) 紫は、半ば呆れ顔で、粋に着こなした市哉の浴衣姿を見た。 「あ、今、どうしようもない男だって思っただろ」 「思ってません」 「顔を見ればわかるよ」 「…そのわりに、悪びれた顔ひとつしないのね」 今度はたっぷりと、皮肉を込めて言ったとき、ふたりはちょうどヒヨコ屋を通り過ぎようとしていた。