紫は、雑踏で市哉を見失わないように追いかけながら、



「駆け込んで来るといえば、市哉さん、今日は診療所にいなくていいの?」



と聞いた。



たしか毎年、縁日の日には休日返上で診療所を開けていたはずなのに。



すると市哉は、いたずらっ子のような顔をして、



「今日は兄さんに任せることにして、こっそり抜け出して来たんだ」



と声を潜めて言った。