「市哉さん、ずいぶん人気があるのね」 紫は、ほんの少し皮肉を混ぜて言った。 「人気があるのは、僕の職業と家柄だよ」 市哉は吐き捨てるようにそう言うと、何かに気づいて、ふと足を止めた。 紫も立ち止まって、市哉の視線を追う。 そこにはヒヨコ売りの店があり、たくさんの子供たちがしゃがんでヒヨコを見ていた。 「ヒヨコが、どうかしたの?」 紫が見上げると、市哉は、ふっと笑って、 「いや、どうかしたわけではないけど」 と言った。