驚いて振り向くと、そこには良く知った顔の男性が立っていた。 「…市哉さん!」 その男性は、この町で唯一の開業医一家の次男で、町中の住人が一度は世話になったことがある。 紫も幼い頃から市哉の親に診察をしてもらったことがあり、年が近い市哉とも顔見知りだった。 市哉が医者になって跡を継いでからは、紫の両親が亡くなったときに長屋まで来てもらったこともある。 それ以来、市哉は、身寄りのなくなった紫のことを、なにかと気にかけてくれる。 気さくだけど真面目な市哉は、紫の憧れだった。