「あら、今日は洋服じゃないのね」 「ああ、なんとなく、ここに来るときは着物を着たくなるんだ」 紫はまた、ふふ、と笑った。 たしかにこの長屋には、洒落た洋装なんて似合わない。 「房子ちゃん、もう表にいたよ」 「え、本当?」 今日は、房子たちが高知へと旅立つ日。 紫はただ見送るだけなのに、どうも落ち着かなかった。