房子は、夫の母の具合が思わしくなく、実家で世話をすることになったと言った。 紫の記憶では、房子の夫の実家は四国だった。 「…じゃあ、越してしまうの…?」 とても気軽に遊びに行ける距離ではない。 「来月の中頃、長屋を出ることになったわ」 「そんな…」 紫には、ずいぶん急な話のように思えた。 「でも…でも、必ず会いに来るから」 房子は、紫の目をまっすぐに見て、力を込めて言った。 その目には、うっすら涙が浮かんでいる。 「房子さん…」