「橘…?」
これが、タチバナ?
血だらけだ。
傷だらけだ。
汚い、こわい、醜い。
―――なんて、憐れな。
何故これで、生きている?
『おねえ、ちゃ…』
部屋の中央に連れてこられた少女が、涙ながらに倫子を見上げていた。
その顔は、誰かに似ているような気がする。
『おねえちゃん、おねぇちゃん…、こわい…』
幼い少女は恐怖に居たたまれなくなり、拘束具を付けたままとうとう倫子に抱きつき泣き出した。
ビジョンだとわかっていながら、慰めてやりたいと、手を伸ばしてしまいそうに、なる。
そうだ、この泣き顔。
「橘に、似てる…」
思わず呟いたそれは、ビジョンの中の男―――雲雀の父親の声によって掻き消された。
『君を慕う可愛い妹を、さて君は、救うことができるかだろうか』
非情な声は、再び倫子の悲鳴に掻き消された。
『やめろ!…やめて!』
ガシャガシャと鳴る拘束具はしかし、彼女を自由になどしない。
白衣を着た二人の男が部屋へと入ってきた。
脅える幼い少女を倫子から引き離し、拘束する。
『やめて…っ!』
悲痛な叫びなど聞こえていないかのように、男達は静かだった。
泣き崩れる少女の細い腕に、注射器が刺し込まれ、赤い液体が注入される―――。
『いやぁああっ…!』
倫子と少女の悲鳴が、一層高まる。
頭が、割れそうなまでに、痛い。
―――ずるり…。
小さな身体が、崩れるように床に這う。
『…あ、ぁ、…ぁ、』
ボロボロと涙を流しながら、倫子は眼下を見つめていた。
絶望に曝された、憐れな屍のように、彼女は。
あまりにも、残虐な。
―――あまりにも。
『君は、知っているね…』
けれど真実は、いつだって空想より残酷なのだ。
雲雀の父親と白衣を着た男達が、ゆっくりと倫子と少女から離れる。
狭い室内に傷付いた少女二人の骸を残し、扉を閉めてすぐ、倫子と少女の拘束具が遠隔操作で外された。
―――彼らは、待っていた。
なにかを、待っているのだ。
『ただのヒトに、アダムの血液を注入すれば、どうなるか…』
少女の外れた拘束具が、かちゃりと鳴いた。


