「橘…ほら、見てみろ」
桐生がアナセスの悲鳴を縫って声を張り上げた。
白濁の視線は、アナセスを見ている。
「アナセスは今、君の過去を見ている。君が今の今まで封じていた、君が最も忌むべき記憶を」
それは、呪いだ。
愉悦に満ちたそれは、なにを示唆しているのか。
先程まで震えていた倫子の肩は、今はもう、震えていない。
「…橘」
雲雀が小さく、その名を呼んだ気がした。
(…まさか、)
ロビンは嫌な予感を感じ、雲雀を見る。
瞳孔が開いたそれは、しかと倫子を見つめていた。
(あいつも、見ているのか?)
その危うい気配は、なんだ―――?
『…っ、ぁ、ああぁぁ、!』
「うわっ」
突然だった。
それは脳髄を電気信号で伝い、脳を爆発させるような、幼い悲鳴。
『やめろ!やめろよ!』
アナセスに触れた手が離れない。
『や、め…!』
悲鳴が、響く。
アナセスを通じて、ビジョンを、見ている。
『やめろ!』
真っ白な部屋。
なにもない空間。
低い天井。
厳重に拘束された倫子の姿。
彼女を囲む白衣の男達。
倫子の視線の先、震えて立つ、やはり彼女と同様に、拘束された幼い少女。
『バケモノ…』
いやに穏やかな声がした。
見れば、見覚えがある人物。
白衣の中、ただひとり上質なスーツを着た、その男は。
「雲雀の、父親…」
今より若く見えるその容姿は、間違えようもない。
ノイズの混じるビジョンはあまりにもリアルで、鮮明だ。
この異常なビジョンは、なんだ?
『君の殺戮本能を強化する、最期のテストだ…』
柔和な声は耳にこびりつくほど、生々しく。
『今まで疲れただろう…』
倫子の、異常なまでに傷ついた体は。
『やめ、ろ…!』
渇れた声で、訴える慟哭は。
髪が抜けた頭部に繋がれた極彩の無数のコード、様々な電子音、全身に走る痛ましく腐食した赤い施術痕、獣に装着するような拘束具を、爛れた傷痕の上から布ひとつあてられないまま填められて。


