『なにも、知らないくせに』
悲鳴染みた声で、必死に。
『おまえに…っ、なにがわかる!』
いつもいつも、嫉妬染みた視線を向けていながら。
『なんで、暴くの…っ!』
肩を震わせ泣いたのは、いつだったろう。
今はもう、無闇に傷付けようとも思わない。
その涙をすべて掬い取って、糧にできれば、と願う。
「雲雀…?」
この掌から伝わる無惨な彼女の過去と痛みが、吹き荒む風を強くする。
(罰だ、きっと…)
繰り返してはならなかった、罪。
それを再び人類に犯す機会を与えてしまった、己の。
(裁く為に産まれてきたのに)
それなのに、そうして罪に濡れた彼女に、喰い潰された。
(もう、なにもかも)
「…ひば、」
こうして唇を重ねたところで、なにも変わらないというのに。
なにも、そう罪すら、塗り変えられることもあるまいに。
(―――それでも)
こうして触れている間だけは、風が鳴り止むから。
(冷たい…)
潮風に吹かれた体はひたりと熱を失い、けれど柔らかさだけは、いつも。
「雲雀…?」
窺うように頬に擦り寄る手は、いつだって冷たくて、傷だらけで。
押し付けていた額を浮かせば、視界を埋める橘の皮膚。
蚯蚓が這うような傷がただ、皮膚を覆い尽くしている。
そこに触れれば、痛みはないようだがしかし、未だ敏感に反応する。
(こんな小さな身体で、耐えて耐えて耐えて…)
「―――ちょ、雲雀…」
傷を見つめられているのがいたたまれないのか、むずがるようにその肩を揺らす。
「いやなの?」
わかってて、訊いた。
鎖骨に一際深く走る施術痕に歯を立てて、舐めて。
「ぎゃっ、」
ひくりと跳ねる体に思わず笑みが浮かぶ。
かわいい。
「…おい、ちょ、」
抵抗する手をそのまま抱きこんで、髪の付け根に潜り込ませた鼻先で首筋を擽る。
少しだけ血が滲む、彼女の匂いが好きだ。
(あぁ、慈しみたい)
はやくはやく。
(汚れてなんかないってことを、ちゃんと、教えてあげなきゃ)
この体を、なにより、心が求めている。


