「僕は、喰いたい」
がぶり。
噛みつかれた頬が擽ったいのか、ケラケラと笑う橘を更に抱き寄せて、その体を抱え込んだ。
腕の中に簡単におさまる小さな身体は、僕の腰に両足を不埒に絡ませて、まだケラケラと笑い続けている。
潮風に揺れる痛んだ彼女の髪と僕の髪が絡まって、なんとも言えない色を造り出していた。
(不和、)
あぁ、だから。
「いっこでいいじゃん」
橘が笑う。
「ふたりで一個、ね」
いつだって橘は、無邪気に僕を殺そうとする。
(ああ、この小さな指に首を絞められて、死にたい)
神の定めはいつだって残酷で冷徹で、そして赦しなど存在しない。
温もりなど求めることも産み出すことも罪と化す時代、世界、時空。
長い間、繰り返される過去で、ただひたすらに、破滅を望んできた。
(記憶はない―――)
「初代」の記憶など、存在しなかった。
だが、いつだって風が啼くのだ。
頭の中で、耳の中で木霊する。
啼りやまない、孤独の情景。
『憎い…』
憎らしや、憎らしや。
『この体は…、もう既にヒトでは、あるまい…』
あぁ、あの人が愛してくれたこの体はもう、もう、私の体は、あぁなんて、醜い。
『あぁ…神様が、私を』
憎みは怨みは、ただその身を循環していく。
この醜い体を造った者を。
過酷な運命を強いた世界を。
憎らしや、憎らしや。
(あぁ、風が啼りやまない)
いつだって、いつだって、頭の中を、脳髄を、冷たい風が吹き抜けて、やまない。
(それは僕が産まれた、北の荒野に吹く風に酷似している)


