―――ゆっくりと離れた唇は、いつもより青ざめて冷たくて、だから。
「橘…?」
衝動に駆られて抱いた小さな頭がか細く鳴いたから、尚更、壊さないように抱え直して。
その額に唇を寄せて慰めるなんて、馬鹿みたいな真似しかできない。
けれど、確かに。
(いつも、そう)
翳る睫毛はいつだって世界の天辺を見つめていて、私なんか眼中にないのだと語る。
―――でも。
「…わたし、」
ねぇ、泣くことを知らないあんたは、じゃあ、いつ、飽和した想いを吐き出せるのだろう。
(いつも世界は、あんたにすべて与えて、そうしておいて、あまりにも冷たい)
無慈悲に、愛される男。
(…でも、雲雀)
「いるから、…あんたの傍に。絶対、離れたりしないから」
小さな頭が小さく反応する。
なにを考えているの、なにを抱いているの。
なにを、壊そうとしてるの。
「この場所で、独りぼっちには、させないから」
(…だから、そんな顔するな)
ぎ、と爪を立てられた気がした。
ぶつりと皮膚が裂ける前に離れた体はまたすぐさま私を引き寄せて、溶け込むようにひとつに、ひとつに。
(…あぁ、融けていけたらいいのに)
「…バカだよ、橘」
(ひとつになれたら、いいのに)
「…知ってたろ」
そしたら。
「…僕も大概、莫迦だ」
バカでいいよ。
バカのままでいい。
「一緒にいようよ。もっと、色んなこと話そう」
あんたが嫌がることもするよ。
あんたが喜ぶこともするよ。
それに、私は。
「泣かせたい」
わたしは、あんたをきっと。
「ぐちゃぐちゃにして、立ち直れないくらい傷付けて、口もきけないくらい抱き潰して、世界なんかあげない」
ずっとずっと、見ててよ。
「あんたがなにに絶望してるのか、あんたがなにをやりたいのか、なにが、あんたを幸せにするのか、なにも知らないから」
だから。
冷たい世界の代わりに、私があんたを暖める殻になるから。
「…バカだね、橘」
そう言って撫でる指は優しい。
いつだってあんたは、優しいんだ。
(優し過ぎて、傷付けずにはいられなくなる)


