―――「異常」なのだと、それは全身で物語っていた。
「倫子さん…っ」
真鶸が群衆の中で悲鳴を上げる。
半眼で―――正気ではないだろう倫子の腕は他人の血にまみれ、見るも無惨なことになっていた。
その細い腕でひと突きされた男子生徒は急いで担架に乗せられ、奥田がすぐさま治療に当たっていた。
…ズルリ。
重たげに足を運ぶ倫子の姿は、静か過ぎて異様なまでに平坦な気配しかしない。
怒りも悲しみも辛さもなにもかもそのうちに閉じ込め、微塵も外に出さないよう密閉しているような。
表情をなくした倫子は、感情までなくしてしまったかのように色付かなかった。
「…、」
遠目で見たアナセスが、痛ましげに眉を寄せている。
ニーロが彼女を庇うように抱き竦め、倫子を嫌悪するような目付きで見ていた。
ひちゃり。
倫子の爪から、赤い血肉が滴り墜ちた。
(…なあ)
ロビンは、やはりただ静かにこちらを見据えている雲雀に無意識に問い掛けた。
届いている必要などない。
(…こいつ、あんまりだろ)
倫子の眼は、相変わらず半分閉じられたまま。
もうなにも見たくないというように。
世界を拒絶するように―――。
憐れだ。
(なんで、なんで…)
見ているのが辛い。
正気と狂気の狭間で、ここまで頼りなくさ迷うような華奢な体が。
思わず我を忘れ痛めつけてしまった傷も、滴る他人の血液も、なにより、浴びせられる中傷も。
「…もう、やめる」
泣きそうになった。
バケモノ、と繰り返される悲鳴の中で、徐々に正気の色を取り戻していく、倫子が。
なんの色も映さなかった丸い眼が、ゆらり、戸惑うのを、見てしまって。
「やめる、もう、いい」
これ以上、曝したくなかった。


